「坂の上の雲」にみる人間管理手法 | ビジネス便利屋のここだけの話

「坂の上の雲」にみる人間管理手法

 こんにちは。昨日はお休みをもらいました。少し忙しかったので、すいません。


 今日は、おとといの続きから書きたいと思います。「坂の上の雲」で魅力ある上司として描かれている大山巌と対極にあるタイプの上司について。


 ここから先の文章は、「坂の上の雲」をまだお読みになっていらっしゃらない方には、わかりにくい部分があるかもしれません。ですが、この小説は中高年経営者がもっとも支持する歴史小説といってもいいと思います。


 我慢して読んでいただければ、彼らと共通の話題で盛り上がるかもしれませんよ。まだ小説を読んでいらっしゃらない方は、是非、読まれることをお勧めします。


 この小説は、司馬作品の中で、「項羽と劉邦」の並びもっともビジネスで役立った小説でもありました。


 さて、大山巌とは対極にあるタイプの上司として描かれているのは、山県有朋です。彼は日露戦争開戦当時、陸軍の総帥で、自ら派遣軍の総司令官になりたがった。


 しかし、すでに総参謀長に決まっていた児玉源太郎が、山県を上司にすることを好まない。


 「わたしは、ガマ坊(大山巌のあだ名)をかついでゆく」と、児玉は大山を上司にすることを選んだのです。  山県と児玉は同じ長州の出身ですよ。当時は長州閥の全盛期。でも、児玉は、薩摩出身の大山を上司にした。先輩、派閥なんかにとらわれていたら、戦に負けてしまいますからね。


 山県には、テゲ(この言葉の意味は、昨日のブログをご覧ください)がなかったと言います。


 陰湿な策士で、自分を頂点とする派閥を作りたがった。自分を虚として、象徴化するような人格の持ち主ではない。また、山県は細々としたことを部下に指示し、人をすくませるようなところもあった。


 今でも、どこぞの会社には、必ずこういう上司はいます。客観的に見た場合、社員間のコミュニケーションにおいて最大の阻害要因になっているのに、本人や周りの人たちが気づいていないケースって結構ある。


 児玉は、山県がトップになると、自分たち部下の能力の発揮が妨げられ、良い独創的な発想も生まれないと考えたのでしょう。


 あくまで、当時最大の目標は、大国ロシアに勝つこと。派閥を作ったり、重箱のすみをつつくような指示をうけて右往左往させられてはたまらない。


 仕事をする上で、もっとも部下が能力の発揮しやすい上司を選ぶ基準として、「高貴な虚」がどうしても必要だったのでしょうね。   


 ところで、司馬遼太郎の「坂の上の雲」は、乃木大将や彼の参謀たちのことをけちょんけちょんに書いてますが、児玉源太郎については日露戦争勝利の最大の功労者として評価している。「坂の上の雲」の児玉源太郎は、太平記の楠木正成みたいな英雄として描かれていると言っていいでしょう。 


 現在、乃木大将を再評価する動きもあるみたいですが、児玉源太郎の小説の中での高い評価をおかしいという人はあまりいません。あれだけの活躍をし、戦後すぐ、燃え尽きるように死んでしまう点も心に残ります。


 戦後、東郷や乃木が神社の祭神として祭られたことを考えると、あまりに控えめな印象を与えます。ただ彼の地位は、総参謀長でした。連合艦隊司令長官や司令官と違って、本来は黒子の立場。本来目立ってはいけないのかもしれません。


 それだけに、彼らがかつぐトップの象徴性は、軍の中だけでなく、広く国民にも慕われるぐらい輝かしいものなのでなければならない。また、それだけ多くの人に愛されるキャラクターでなくてもいけない。


 テゲ、すなわち高貴な虚は、上司としてのみならず万人に愛されるキャラクターとも言えるのです。


 ところで、大山巌の部下の立場であった児玉源太郎にもテゲの部分があったといいます。彼の日露戦争前の地位は、内務大臣兼台湾総督。自ら降格して、大山巌のスタッフにつきました。しかし内務大臣は辞職したものの、台湾総督の地位は戦争中もそのままだったのです。


 面白いのは、大山巌が児玉源太郎にテゲすると同時に、児玉源太郎は彼の部下の後藤新平に対して、テゲだったこと。


 台湾総督であった児玉源太郎は、現地にいる後藤新平に印鑑をわたし、すべてを委任した。もちろん、後藤新平に私欲がなく、現実を直視する能力を持ち、官吏としての能力の高さを見越してのことだったようです。


 児玉源太郎は、大山巌の有能な補佐役であると同時に、部下には高貴な「虚」を貫く。


 すごいのは、児玉源太郎が能吏としてすべて取り仕切るだけの能力を持ちながら、テゲ、すなわち高貴な「虚」を実行したことですね。


 ますます尊敬しちゃいますが、確か「坂の上の雲」には、こんなに理論だてて彼らの管理手法について触れていなかったような気もする。


 その小説を読んだとき、感動した理由の一端がわかったような気がして、ハッピーな気分です。


 次回はもう少しわかりやすく、テゲについて触れてみたいと思います。